犬にも『利き鼻』がある?右と左の鼻を使い分ける驚きの能力を最新研究から解説
犬は右の鼻と左の鼻を『においの種類』によって使い分けている──そんな驚きの研究結果があるのをご存じですか。他の犬のにおいは右鼻、飼い主のにおいは左鼻。『側性(ラテラリティ)』と呼ばれるこの能力の意味を、イタリアの研究などをもとにやさしく解説します。

愛犬が散歩中、電柱や地面に鼻を近づけてフンフンとにおいを嗅ぐ姿。何気ない行動に見えますが、その「鼻の使い方」には、私たちの想像をはるかに超えた精密な仕組みが隠れているかもしれません。
実は近年の動物行動学研究で、犬は右の鼻の穴と左の鼻の穴を、においの種類によって使い分けているという驚きの可能性が示されています。人間に「利き手」があるように、犬の嗅覚にも「左右の役割分担」があるというのです。
この記事では、「犬の利き鼻」をめぐる研究結果をわかりやすく紹介しながら、なぜそんな使い分けが起きるのか、そして飼い主としてこの知識をどう愛犬との暮らしに活かせるのかを、やさしく解説していきます。
結論:犬は「においの意味」で鼻を使い分けている可能性がある
先に結論からお伝えします。
複数の研究から示されているのは、犬は「安心できるにおい」と「警戒すべきにおい」とで、最初に使う鼻の穴(右か左か)を変えているという傾向です。
ざっくりまとめると、次のようなイメージです。
- 知らない犬・刺激的・警戒すべきにおい → 右の鼻を優先的に使いやすい
- 飼い主のにおい・慣れ親しんだ・安心できるにおい → 嗅ぎ慣れるにつれ左の鼻に移っていく
この「左右で役割が違う」という現象は、専門的には 側性(そくせい/ラテラリティ, laterality) と呼ばれます。脳の左右の半球が、それぞれ違う種類の情報処理を得意としていることと深く関係していると考えられています。
ただし、これは「すべての犬が100%こう動く」という断定的な法則ではなく、統計的に見られた傾向です。ここはとても大切なポイントなので、順を追って見ていきましょう。
そもそも「側性(ラテラリティ)」とは?
側性とは、体や脳の働きに左右の偏りがあることを指します。
わかりやすいのが人間の「利き手」です。多くの人は右手を使うのが得意で、文字を書くときも箸を持つときも、無意識に右手を選びます。これは、脳の左右で役割が分かれている(機能分化している)ことのあらわれだと考えられています。
近年の研究では、こうした左右の偏りが人間だけでなく、犬をはじめとする多くの動物にも存在することが分かってきました。当サイトでも、犬の「利き足」については別記事でくわしく紹介しています。
▶ 関連記事: 犬にも『利き足』がある?最新研究が解き明かす左右どっち派の見分け方と性格との意外な関係
そして興味深いことに、この側性は手足だけでなく、「鼻」=嗅覚にもあらわれるというのが、今回のテーマです。
犬にとって嗅覚は、世界を理解するための最も重要な感覚です。人間が「見る」ことで状況を把握するように、犬は「嗅ぐ」ことで世界を読み取っています。その犬が、鼻の左右を使い分けているとしたら──それは犬の脳が、においの情報をとても高度に処理している証拠だと言えるでしょう。
犬の嗅覚そのものの驚異的な性能については、こちらの記事もあわせてどうぞ。
▶ 関連記事: 犬の嗅覚は人間の1億倍? "においの世界"を生きる犬のおどろき科学
研究でわかったこと:「右鼻」と「左鼻」の役割分担
犬の利き鼻に関する研究として知られているのが、イタリアのバーリ大学やトレント大学の研究チームによる実験です。
研究チームは、綿棒にさまざまなにおいをしみこませ、それを犬の鼻に近づけて、犬が最初にどちらの鼻の穴で嗅ごうとするかを丁寧に記録しました。においの種類は、食べ物、見知らぬ犬の分泌物のにおい、飼い主のにおい、獣医さんなど緊張を感じやすい相手のにおいなど、さまざまなパターンが用意されました。
その結果、浮かび上がってきた傾向が、次のようなものでした。
1. 警戒・興奮するにおいは「右の鼻」から
見知らぬ犬のにおいや、アドレナリンが出るような刺激的なにおいに対して、犬は最初に右の鼻の穴を使う傾向が見られました。
これは、脳の右半球が「警戒」「新奇なもの」「ネガティブな感情」の処理を担当しやすいことと関係していると考えられています。右の鼻から入った情報は、主に右の脳に届きやすいため、「まず警戒モードでチェックする」という流れが生まれているのではないか、というわけです。
2. 安心できるにおいは「左の鼻」へ移る
一方、飼い主のにおいなど「慣れ親しんだ安心できるにおい」に対しては、嗅いでいるうちにだんだん左の鼻の穴を使う割合が増えていく傾向が見られました。
左の鼻から入った情報は主に左の脳へ。左半球は「落ち着いた状態」「安心」「ポジティブな処理」と結びつきやすいとされます。つまり犬は、「このにおいは安全だ」と判断すると、リラックスモードの左鼻に切り替えている可能性があるのです。
3. 「仲間」と「他の種」で処理ルートが違う可能性
さらに研究では、犬のにおい(同じ種=仲間)と、人間のにおい(別の種)とで、脳の処理ルートそのものが異なるのではないかという可能性も指摘されています。
犬にとって「仲間の犬」と「大好きな飼い主(人間)」は、どちらも大切な存在ですが、脳の中では少し違ったしくみで情報が整理されているのかもしれません。これは、犬が社会的な関係をどれほど繊細に捉えているかを物語る、とても興味深い発見です。
なぜ鼻を使い分けるの? 考えられる3つの意味
では、なぜ犬はわざわざ鼻を左右で使い分けるのでしょうか。はっきり解明されているわけではありませんが、研究者たちはいくつかの仮説を立てています。
意味1:危険をすばやく察知するため
まず右鼻(=警戒モード)で新しいにおいをチェックすることで、「これは危険かもしれない」という判断を素早く下せるという利点が考えられます。野生で暮らしていた時代、見知らぬ相手や捕食者のにおいをいち早く察知することは、生き延びるために欠かせない能力でした。
意味2:感情を整理するため
においには、犬の感情を揺さぶる力があります。左右の鼻を使い分けることで、「警戒」と「安心」という感情のスイッチを切り替えているとも考えられます。安心できるにおいを左鼻で味わうことで、心を落ち着けているのかもしれません。
意味3:情報をより正確に処理するため
左右の脳がそれぞれ得意分野を持つことで、限られた脳の資源を効率よく使えるという考え方もあります。すべてを両方の脳で処理するよりも、「危険の判断は右」「安心の確認は左」と分担したほうが、速く・正確に対応できるというわけです。
これらはあくまで仮説ですが、いずれにしても犬の鼻と脳が、私たちの想像以上に高度な連携をしていることは間違いなさそうです。
家庭で「利き鼻」を観察してみよう
専門的な実験装置はなくても、愛犬の鼻の使い方をゆるく観察してみることはできます。あくまで遊び感覚で楽しんでみてください。
- 散歩中、はじめての場所やはじめてのにおいに出会ったとき、どちらの鼻の穴がよく動いているかをそっと観察する
- おやつなど大好きなにおいを嗅がせたとき、鼻の動きがどう変わるかを見る
- 嗅ぎ始めと、嗅ぎ慣れたあとで、使う鼻が変わっていないかを比べる
とはいえ、犬の鼻の穴の動きはとても細かく、肉眼で左右を見分けるのは簡単ではありません。「右から嗅いでいるかも?」くらいの気持ちで、無理に判定しようとしないことが大切です。観察に夢中になって、愛犬が嫌がるのに顔を押さえつけたりするのは絶対にやめましょう。
鼻をたくさん使わせてあげよう
利き鼻の話から見えてくるのは、「嗅ぐこと」そのものが犬にとって大きな満足になるという事実です。においを嗅いで情報を処理するのは、犬にとって立派な「頭の運動」。散歩でしっかりにおいを嗅がせてあげることは、心の健康にもつながります。
雨の日や散歩に行けない日には、室内でにおいを使った遊びを取り入れるのもおすすめです。
こうした嗅覚を使う遊びは、留守番前のエネルギー発散や、シニア犬の脳の活性化にも役立つと考えられています。おやつを使うときは、無添加の犬用おやつなど、素材にこだわったものを少量ずつ使うと安心です。
嗅覚と全身の健康はつながっている
犬の鼻は、感情や情報処理だけでなく、健康状態ともつながっています。鼻が乾いているか濡れているかで体調のヒントが読み取れることもあります。
▶ 関連記事: 犬の鼻はなぜいつも濡れている?3つの科学的な理由と、乾いているときに見るべきサイン
また、嗅覚をしっかり働かせるためには、日々の体調管理が欠かせません。良質な食事でコンディションを整えてあげることは、愛犬がいきいきと「においの世界」を楽しむための土台になります。食いつきと素材にこだわりたい方は、国産・無添加にこだわったモグワンドッグフードのようなフードを検討してみるのもよいでしょう。
お手入れの面では、鼻のまわりや口元をやさしく拭ける犬用ボディタオルを常備しておくと、散歩のあとのケアにも便利です。
気になる変化があれば獣医師に相談を
ここまで「利き鼻」という楽しい話題を紹介してきましたが、最後に大切なことをお伝えします。
鼻の使い方そのものは病気のサインではありませんが、次のような変化が見られたときは、自己判断せずかかりつけの獣医師に相談しましょう。
- 鼻水や鼻血が続く
- 片方の鼻だけからいつも分泌物が出る
- しきりに鼻を気にしたり、くしゃみを繰り返したりする
- においへの反応が急に鈍くなった、食欲が落ちた
これらは鼻のトラブルや、ほかの不調のあらわれである可能性もあります。気になる症状があるときは早めに専門家に診てもらうことが、愛犬の安心につながります。
まとめ
今回は「犬の利き鼻」という、ちょっと意外な雑学をご紹介しました。最後にポイントを振り返ります。
- 犬は、においの種類によって右の鼻と左の鼻を使い分けている可能性がある
- 警戒・刺激的なにおいは右鼻、安心できる慣れたにおいは左鼻へ、という傾向が研究で示されている
- この左右の役割分担は**側性(ラテラリティ)**と呼ばれ、脳の左右の機能分化と関係すると考えられている
- 使い分けには「危険の察知」「感情の整理」「効率的な情報処理」などの意味がある可能性がある
- 嗅ぐことは犬にとって大切な「頭の運動」。散歩や嗅覚遊びで鼻をたっぷり使わせてあげよう
愛犬が鼻をフンフンと動かしているあの姿の裏には、こんなにも精巧な脳のはたらきが隠れているかもしれません。今度のお散歩では、愛犬の鼻の動きをちょっとだけ気にかけてみてはいかがでしょうか。きっと、いつもの散歩がもっと愛おしく感じられるはずです。
出典
- こいぬのへや「犬は匂いによって右鼻と左鼻を使い分ける」 https://www.koinuno-heya.com/news/2016/february/19.html
- 犬曰く(尾形聡子)「使い分けられていた、犬の鼻の穴」 https://inuiwaku.net/9427/
- University of Bari / University of Trento 犬の嗅覚の側性に関する研究(Siniscalchi et al.)


